ブランドコミュニティモデル

大きな転換

ブランドガバナンス。この言葉は、非常に厳格な規則や規制、ポリシーや手順を暗示していますが、的確な表現とも言えます。従来のブランドガバナンスの役割は、ブランドが一貫して管理・提示され、ガイドラインが適切に実行され、規則が遵守されるよう保証することでした。

その役割は、今や劇的に変化しています。

昨年、私たちは、現在の市場でブランドを成功させる要因を分析し、アジリティ・パラドックスというテーマを研究しました。パフォーマンスの高いブランドを差別化する重要な要素は、急速に進化する環境に適応しながらブランドに忠実であり続ける能力――アジリティ(機敏さ)であることがわかりました。

アジリティを実現するには、より大きなリスクを受け入れ、より多くの失敗に耐え、実権を委譲する必要があります。これは、従来のブランディングの方法とは異なる考え方です。では、どのようにアジャイルブランド(機敏に変化するブランド)を管理すれば良いのでしょう?

この質問に答えるために、私たちは昨年、アジャイルブランドおよびブランドガバナンスの共通点を分析しました。フォーチュン500企業の内20社にインタビューし、成功事例を特定し、現在のブランドガバナンスが直面している課題に対する理解を深めるため、業界関係者と話しました。

その後、世界をリードするブランドの上級役員に集まってもらいました。私たちの目標は、ブランドと同じくらい復元力および柔軟性があるブランドガバナンスの新しいモデルを確立することです。

Brand Community Model client panel

ブランドマネジメントは、伝統的に、洗練されたロゴ、完璧なタッチポイント、慎重にストーリー化された体験といった厳格な体系を構築することで占められていました。しかし、現在の複雑で急速に変化する市場においては、コントロールの概念は誤りです。ザ・ダウ・ケミカル・カンパニーの企業広告・ブランディング担当ディレクターのMichael Kolleth氏は、次のようにコメントしています。「現在の環境において、企業が自社ブランドを直接コントロールする力は、20年前よりも弱まっています。彼らはブランドに影響を与え、より複雑な生態系内でブランドを管理する他の人々を受け入れなければなりません」

私たちが話した大多数のブランドリーダーは、標準的なブランドガバナンスの実践はもはや有効ではないという点に同意します。

「ブランドは静的ではなく、非常に動的です。ブランドは生きて呼吸しています」
—クライアントのパネリスト

現在のブランドは、複数のチャネルおよび経験を持つ無数の人によって形作られています。これらのグループには、従業員、パートナー、代理店、さらに幅広い第三者のインフルエンサーと熱狂的なファンが含まれます。彼らは統制される受動的な観客ではなく、育まれるべき積極的な参加者です。

この新しい現実に対処するためには、時代遅れの仮定を取り除く必要があります。私たちには新しい戦略が必要です。

現在のブランドガバナンスが直面している5つの課題

  1. ブランドは現在ほど重要視または過小評価されたことはありません。
    組織は、ブランドがどのようなもので、どのように使用すべきかを理解していません。
    ブランドリーダーは、ブランドやビジネスの意思決定に早い段階から含まれていません。
  2. ブランドチームは「ブランドポリス(ブランドを厳格に管理する人たち)」」として認識されています。
    ブランドマネージャーは、事前対応的なリーダーではなく事後対応的なモニターの役割を果たしています。
    ブランドリーダーは、企業戦略チームの一員として扱われていません。
  3. 伝統的なブランドのツールキットは、もはやその意図した目的に適合しません。
    ガイドラインを守っても、オンブランド(ブランドの戦略的意図に則している)であることが保証されるわけではありません。
    指揮統制的な戦術は、ブランドを硬直させ、非効率的で関連性のないものにします。
  4. 理由ではなく対象に焦点が当たっています。
    ブランドリーダーは、ブランドの背後にある理由ではなく、「ブランド資産をどうするか」に重点を置いています。
  5. 実験を行ったり、リスクを取ったりする余地がほとんどありません。
    全ての決定は、同じ重要性を持つものとして扱われます。
    ブランドは柔軟性がなく、小さな矛盾を許容することができません。
Brand Community Model working

ブランドコミュニティモデル

コミュニティは、ブランドガバナンスに対する新しいアプローチの要となります。ブランドが生き残るために継続的に適応しなければならない場合は、ブランドを最もよく理解し、最も関心を持つ人たちの参加を奨励しなければなりません。

効果的に活用されるコミュニティは、製品開発者、マーケットメーカー、ヘルプデスク、コンテンツクリエーター、問題解決者などです。彼らは、アジャイルブランドを成長させ、状況に応じて柔軟に行動させる力を持っています。

コミュニティを通してブランドを管理するとはどういう意味でしょうか?

「手放すことを学ぶことは、私たちの成功の鍵でした」
—ブルークロス・ブルーシールド協会消費者ブランド戦略担当エグゼクティブディレクター、Amy Hogan氏

まず、私たちの最も基本的な前提のうちの2つに挑戦し、極めて神聖ないくつかの慣行を手放す必要があります。

却下すべき最初の前提は、全てのオーディエンスを同じように扱うことです。過去のブランドの書籍、ガイドライン、研修資料は、全ての人に平等なサービスを提供することを予想して作成されました。 現在は、より多くの人がブランドに影響を与えているため、より繊細なアプローチが求められています。

第二に、全てのブランド表現を同じくらい重要なものとして扱う慣行をやめなければなりません。 いくつかの表現はブランドの本質を定義していますが、それ以外は定義していません。優先順位付けは必須です。

以下のフレームワークは、ブランドに命を吹き込むためにオーディエンスとブランド表現がどのように結びついているかを示しています。

Exploratory 探索的
ブランドの背景にある理由を伝える限り、自由に探査できる表現

Interpretive 解釈的
一連の原則に基づいて解釈できる表現

Sacred 聖域
一連のガイドラインに基づき、厳密に管理する必要がある最も重要なブランド表現

Experts 専門家
ブランドチーム、マーケティングおよびコミュニケーションチーム、代理店パートナー

Practitioners 実践者
ブランドアンバサダーとして採用された従業員、熱心なチームメンバー、特定のビジネスリーダー、リージョンまたはローカルのマーケティング窓口とその代理店、外部のブランドアンバサダー、熱狂的なファン

Employees 従業員
組織内の全従業員

Brand Community Model framework

3つのレベルのコミュニティ

ブランドリーダーは、組織内の複数のオーディエンスを特定し、彼らと話す方法を知り、それぞれに適切なツールとガイダンスを提供する必要があります。概して、ブランドを形成する上で主要な役割を果たす3つのレベルのコミュニティがあります。

1. 専門家

専門家コミュニティには、リーダーシップ、ブランドおよびマーケティングチーム、代理店パートナーが含まれます。専門家は、ブランドの背後にある全ての理由を理解しています。彼らの仕事は、戦略を設定しブランドの未来を定義することです。これは、ビジネス目標とブランド資産の広範な知識を必要とします。ブランドを根本的に変える可能性のある重要な決定は、このコミュニティによって作られるべきです。

2. 実践者

第2のグループは、市場にブランドを実践する人々で構成されています。彼らはなぜそのブランドが存在するかをよく知っていますが、専門家よりも一般的なレベルの知識です。このグループには、製品開発者やクライアント管理者、外部のブランドアンバサダーやインフルエンサーが含まれます。

Brand Community Model employees

これらのプレーヤーにブランドガバナンスの声を与えることは、10年前は考えられなかったでしょう。しかし、その影響は大きく、適切に関わっていると強力な支持者となります。コムキャスト社のブランドアイデンティティ担当シニアディレクター、Allegra Rich氏は、「特定の境界内でブランドを探索する許可を与えることは、イノベーションを促進する鍵です」と述べています。

3. 従業員

第3のコミュニティである従業員は、消費者接点の最前線でブランドを代表しています。全ての従業員は、ブランド資産とブランドガイドラインへの全面的なアクセスを求められていないかもしれません。しかし彼らは、ブランドを宣伝し迅速な意思決定を行い、顧客の要求に適切に対応できる必要があります。

FedExのグローバルブランド担当ディレクターであるApril Britt氏は、「組織内の人々は私たちの支持者です。私たちのブランドにとって大切なものは何か、私たちは誰か、何を表しているのかを、誰もが理解できるようにすることは基本的なことです。

ブランド表現の3つのレベル

役割に応じてコミュニティを識別できるように、ブランド表現は優先度で分類できます。彼らは3つの主要なグループに分類されます。

1. 聖域

これらは、言語的・視覚的・行動的・経験的な要素であり、ブランドを根本的に定義し、その意味を作り出します。これらは不可侵なものです。また、あるブランドにとっては神聖なものが別のブランドではそうでないかもしれません。

Old Spice | The Man Your Man Could Smell Like

Old Spiceの場合、広告で使われている特徴的な音は神聖なものと見なされます。Old Spiceが視覚的アイデンティティ、ポジショニング、タグラインを変え、リブランドされたときでさえ、その音は残っていました。シンガポール航空の場合、それは温かいタオルの香りです。これらの表現を取り除いたり変更したりすることは、ブランドの本質を損なうことになります。

2. 解釈的

ブランドがアジャイルで敏感に反応する場合には、解釈の余地を残さなければなりません。この第2のグループに属する要素は、文脈、市場、または地勢に基づいて適合させることができます。

Brand Community Model IBM

IBMのSmarter Planetロゴの上側にある5つの光線は聖域であり、依然として変わらないままです。しかし、中央のアイコン(解釈要素)は、雨滴や花から、雪の結晶やりんごまで、文脈上の関連性がある限り、ほとんどの形態をとることができます。

Googleは、その基本的なロゴを即興で作り、Google Doodlesを通じて解釈を促します。ほとんどはGoogleのスタッフによって作成されますが、ファンも人物やイベントを記念したデザインアイデアを提出することができます。Googleは、1年を通してそのホームページに表示される最適なDoodlesを選択します。

3. 探索的

ブランドの他の側面は、さらなる創造性とリスクのために広げることです。これらの探索的表現は、従業員がブランドの価値を表現するうえで優れた判断を下すことを条件として、自由に適応または変更することができます。実験の扉を開けると、予期しない素晴らしいアイデアが生まれることがあります。ブルークロス・ブルーシールド協会の消費者ブランド戦略担当マネージングディレクター、Becky Folds氏は、「従業員にブランドに関する共通のビジョンを授け、そこに到達するまでに36個か37個の異なる方法があることを理解しておくことです」と述べました。

Brand Community Model Disneyland
画像提供:FlickrユーザーAnna Fox

ディズニーランドのウォーターアートを例に挙げます。来園者に楽しんでもらうため、ディズニーのキャラクターの絵を水で最初に描いたのはパークの管理を担当するキャストでした。今では全てのスタッフの間で、練習が奨励されています。あるパークのキャストは、「最初は清掃よりも面白いからやっていましたが、どれくらいのお客様がそれを心から楽しんでくださっているか知りました。勤務最終日、小さな女の子のためにミニーマウスを描いたんです。彼女は英語を話せなかったので、感謝を伝えるためにハグしてくれました。思わず泣いてしまいました。」と話している。

モデルを機能させること

ブランドのさまざまなコミュニティや表現を特定することは、始まりにすぎません。コミュニティを動員し、彼らに共通の目的と責任感を与えることから、成功は達成されます。

強固なコミュニティを育成するためにブランドリーダーが取るべき5つの行動があります。

1. 優先順位を付け、委任すること

ブランドリーダーは、最も重要な意思決定および表現に優先順位を付け、他の人に委任する必要があります。これにより、彼らは主要な問題に集中し、戦術に対する戦略を強調することができます。

Amazonの創設者兼CEOであるJeff Bezos氏は、企業が簡単に変更できないような、名前の選択およびIPOのナビゲートなど、いくつかの決定があると説明しています。他の選択肢はそれほど重要ではありません。例えば、ソーシャルメディアのメッセージやブログエントリーは、投稿後も変更することができます。これらの可逆的な決定は、厳密に監督する必要はありません。

「私たちは、会社の長期的な財務計画の重要な側面を支える主要な戦略的イニシアチブに優先順位を付けます」
—コムキャスト社のブランドアイデンティティ担当シニアディレクター、Allegra Rich氏

組織の専門家コミュニティは、ポジショニングおよび戦略の深い理解を必要とする不可逆的なブランド意志決定を処理する必要があります。専門家はまた、ブランドの神聖な表現をコントロールする必要があります。これらの変更はビジネスに大きな影響を与えるためです。
変更可能な決定は、実践者および従業員に委任することができます。これらのコミュニティは、ガイダンスが提供されている限り、情報に基づく選択を行うために、ブランド価値を十分に理解しています。このようにして、ブランドはリスクを取り、新しいアイデアを試すための適切なスペースを作り出すことができます。

The Art of The Craft - Hotelier

ザ・リッツ・カールトンは、実践者および従業員のコミュニティに、実践的な日々の意思決定を行う権限を持たせています。WOWイニシアチブを通じて、ゲストに最高の体験を提供するために、全てのスタッフに1日2,000ドルが割り当てられます。ザ・リッツ・カールトンの専門家は、実践者や従業員がブランドのオン/オフ(ルールに適合しているか否か)を理解し、それに応じて行動することに信頼をおいています。

2. 代理店の協力を求めること

優れたアイデアは、組織のあらゆるレベルで、あらゆる時に、あらゆる人から出てくる可能性があります。クリエイティブチームからメディアエージェンシー、デジタルグループに至るまで、互いの思考を相互交流することができる代理店のパートナーにも同じことが言えます。

このレベルでの協調は、多くの代理店にとって新しく、おそらく居心地の悪い考え方でしょう。このようなチームワークを奨励するための1つの戦術は、この目的のために予算を別に用意することです。

Brand Community Model collaboration

プロクター・アンド・ギャンブルは、新しいイニシアチブの立ち上げに先立ち、従業員全員の意見や質問を確実に聞くために、全チーム・全代理店のワークセッションを組織するポイントを作っています。結果として得られるキャンペーンとアイデアは、より強くより総合的で、複数の視点を代表する傾向があります。

3. 「なに?」から「なぜ?」にシフトすること

ブランドを考える時、ブランド資産の対象(使用する資産、ガイドラインが示すもの)“WHAT”から、理由(なぜ特定の方法で資産を使用するのか、なぜブランドがその中心的な信念を保持するのか)“WHY”にシフトすると、ブランドの機能をより深く理解することができます。そうすることで、従業員は経営陣からの詳細な指針がなくても意思決定を行うことができます。これは当事者意識を生み出し、従業員個人個人が会社の成功に貢献するようになります。

「私は寛容性があり、ブランドの背後にある理由を理解することを優先する新しいブランドマネジメントモデルを信じています」

—ゼネラル・エレクトリック社、グローバルブランド・デザインディレクター、Rich Narasaki氏

#OptOutside: Will You Go Out With Me?

REI(レクリエーショナル・イクイップメント・インコーポレイテッド社)の指針の原則は、「新鮮な空気を吸い、自分たちの土地やコミュニティの手入れをし、そして素晴らしい道具をリーズナブルに購入する」という価値観を強調しています。昨年、REIは#OptOutsideの約束を実行し、ブラックフライデーに店舗を閉め、従業員と顧客が屋外に出るように促しました。

4. ブランドチームを拡大すること

具体的なミッションおよびインセンティブは、ブランドとのより強いつながりを作り出すことができます。この戦術は、実践者および従業員から未開発のアイデアを専門家コミュニティに引き出す際に特に役立ちます。

Brand Community Model eteRNA

カーネギーメロン大学とスタンフォード大学の研究者は、病気と戦うために、リボ核酸(RNA)をマッピングする新しいアプローチが必要でした。彼らは斬新なアイデアを探して、オンラインゲームEteRNAを開発し、一般市民にプレーしてもらいました。約4万人の参加者が挑戦し、目を見張るような結果を出しました。現在では、このコミュニティによって提案されたソリューションの99%が、コンピュータによって生成されるよりも安定した分子を生成しています。

5. ブランドを組み込むこと

従業員のエンゲージメントは、単純化し過ぎたり、退屈である必要はありません。適切に実行されると、スタッフがブランドの背後にある理由を内在化し、オンブランドの行動を促すのに役立つ優れた手助けとなるでしょう。

新しい従業員が幅広いメニュー選択を迅速に行うために、ドミノ・ピザは、ピザ作成プロセスをインタラクティブなデジタル学習モジュールに変えました。これにより、新しい従業員は、役割に関わらず、ドミノの提供内容とその意味を正確に把握することができます。

 

Brand Community Model Warby Parker
画像提供:FlickrユーザーBarry Pousman

眼鏡専門の小売業者、Warby Parker社は、スタッフからのフィードバックを毎週求めています。従業員は業績を報告し、自分たちの満足度を評価し、大小のイノベーションアイデアを提出します。これにより、経営陣はアイデアや懸念に迅速に対応することができます。さらに優れた点は、誰もがブランドと調和し、将来に焦点をあてることです。

コミュニティを取り込むこと

ブランドコミュニティモデルは、ブランドをより強く、より実用的にするためのダイナミックな戦略です。仮説を再考し、実権を委譲することができれば、その影響は刺激的で複雑です。特にブランドリーダーにとっては、このアプローチは変化に対する意欲を養い、以下の点に焦点をあてます。

  • 従業員や外部パートナーを全員集め、ブランドを活気づける役割を果たす
  • 意思決定とブランド表現の優先順位を付ける
  • 柔軟性と直感を育む

不安をかき立てる未知の領域かもしれませんが、コミュニティを管理することは未来への道筋であり、絶え間なく変化する市場でアジャイルブランドが競争優位性を維持する最も確実な方法です。

Brand Community Model teamwork