M&A2018:決定打となるブランド

M&Aスペシャリスト、ベーカー&マッケンジー法律事務所は、2018年はM&A市場にとって躍進の年になるという見解を発表しています。その規模は対前年比23%増の3.2兆ドル。企業が成長戦略の一環としてM&Aに注力する中、ブランド戦略、すなわち新しく得たブランドをどう扱うかも重要課題となってきます。

ランドーでは今年、初の詳細なM&Aブランド・スタディ・レポートを発表しました。これはS&P100の過去10年間にわたるM&Aを経たブランドの定量分析です。この調査は、企業が獲得したブランドをどのように移行し、変革させ、成長させたかの過程とその傾向を追いました。

Landor MA Brand Study

M&Aを成立させるにあたり考慮すべき点は、合併の必要性、将来的な展望、法的観点、市場活性化に対する影響など多数あります。その考慮すべき様々な点の中で、ブランド・エクイティは従来の財務や法務主導型のM&Aでは見過ごされがちな要素でした。しかし、ランドーの調査によると2018年はブランド戦略がM&Aの価値を大きく左右する時代の幕開けになると予測しています。

このトレンドが2018年に顕著に見られる5つの業界はこちらです:

1. フィンテックの主流参入

金融サービスの二極には、多少錆びついている巨大組織と機敏さが売りのスタートアップがあります。対極にいるものの、近年では業界のビッグプレイヤー達は、番狂わせを仕掛けてくるフィンテックに対し遠巻きながらも目を光らせてきました。デジタル・ディスラプションが猛威を振るう中、2018年は静観してきた巨人たちが羊の皮を脱ぎ捨て、芽が出そうな挑戦者たちの摘み取りを本格化するのではないかと言われています。

Aldermore – Banking for the Bold

すでに行われた吸収合併で今後の動向の例になると思われるのが、ファーストランド銀行(南アFirstRand、大手金融機関)によるアルダーモア(英Aldermore、オンラインバンク)の吸収。イギリスではまだ店舗を持たずブランドも確立していないファーストランドは、アルダーモアのブランドを存続させる戦略に出るようです。

従来のM&Aでは、どの業種でも合併後にマスターブランドの確立が既定路線でしたが、この事例はマーケットシェア拡大のために業界大手がブティックブランドを保持する手法が広がりつつある兆しとも言えます。

2. テックのブランド・ダイバーシティ

テック業界ではこの10年間、GoogleのYouTube買収のような対コンシューマーブランドのメガ・ディールが幾度も交わされてきました。このメガマージャーの流れはサプライチェーン全域に広がりを見せています。ソフトバンクによりARMホールディングス(英ArmHoldings、システム開発)の310億ドル買収や、ブロードコム(米Broadcom、半導体大手)が同業クアルコム(米Qualcomm)への1000億ドル敵対的買収の交渉などがその例です。

M&A in 2018 SoftBank
Image courtesy of Flickr user MIKI Yoshihito.

この流れは、巨大な資本を前にサプライヤーが翻弄される図式から派生したものです。Appleから調達停止宣告を受けたイマジネーション(英ImaginationTechnologies、SoC)は全社売却へ追い込まれ、クアルコムやダイアログ(独Dialog、半導体)も見限られるのを目の当たりにしたサプライヤー達は、Appleの脅威に震え上がらされました。その結果、今後の危機的状況への自衛手段として合併が増えると考えられます。

ただし、このような合併の場合、ブランドの一本化に必ずしも至りません。従来のテック業界では買収されたブランドの76%が7年以内に消滅しマスターブランドに吸収されるのが常でしたが、ソフトバンクに買収されたARMは独立した組織としてイギリスに本部を構え、独自のブランドも存続しています。このような事例はテック業界でも優れたテクノロジーやブランドは存続させるという今後の流れを作ったと言えます。

3. FMCGブランドのEコマース進出

FMCG(日用消費財)カテゴリーにとってデジタル時代への突入は悩ましいものです。スーパーなどの小売店へのマージンを気にするあまり、デジタル進出にすっかり遅れを取り、その間にeコマースが新たな販路を次々と確立してしまったのです。

だが、年始にあったクラフト・ハインツのユニリーバへの買収交渉などのように、FMCG大手にとってM&Aは得意分野です。収益が低いブランドを切り捨て、ユーザーを囲い込める勢いのあるブランドを獲得する戦術は彼らの常套手段だからです。

DollarShaveClub.com - Our Blades Are F***ing Great

FMCG大手は何年もの間、e-コマース進出を切望するも、既存の販路にダメージが及ぶのを恐れ、手出しができない状況が続いていました。だが、変革の時がついに来ようとしています。手法としてはユニリーバが10億ドルでダラー・シェイブ・クラブ(米DollarShaveClub髭剃り定期宅配サービス)を買収したように、大手によるネット・ベースのFMCG企業の買収が主流になると見られます。本体と買収した企業は独立したブランドとしてそれぞれの業務を今まで通りに続ける中で、eコマースのノウハウと実績を積むのが狙いです。

ランドーのM&Aブランド・スタディでもこの戦略について触れています。FMCGカテゴリーでは買収したブランドを存続させる傾向にあり、買収7年後でも44%のブランドが継続されています。2018年のM&Aでもこの傾向はさらに強まり、FMCG企業にとってD2C販路を築く足掛かりになると予測されています。

4. 限界点を迎えるエネルギーブランドエネルギー

カテゴリーのどの企業も、この3年間はポートフォリオの断捨離を行い、優秀なアセットのみに絞り込むことに専念してきました。しかし、原油価格が徐々に高騰し、収益も回復しつつある中で、M&Aが活性化されると見込まれています。かつてはM&Aに消極的であった業種でこの変化は意外ですが、これには訳があります。

M&A in 2018 Energy Sector Power Plant

世界的にグリーンポリシーの波が消費者そして政府からも押し寄せる中、大手エネルギー会社はそれに持ちこたえるため、ビジネスモデルの強化が急務となっています。その解決案がM&Aです。

しかし、M&A進出には、ビジネスモデルだけではなく実際のビジネスを守らなければならないという側面もあります。従来のエネルギー産業でのビジネスは既に限界点に達しており、このままでは過去の遺産を食いつぶすだけで、市場で生き延びられるのは、恐らく新たに獲得したブランドのみです。買収したブランドを1年未満でマスターブランドに取り込み消滅させてしまうこのカテゴリーでは、自らが置かれている状況を認知することから変革は本格化するのではないでしょうか。

5. 患者ファーストのヘルスケアブランド

製薬会社間では数年周期でメガマージャーや交渉が起こるので意外とも言えますが、実はヘルスケアはM&Aが極めて少ない産業の一つです。しかし、これも変わろうとしています。

2018年は先進国特有の高齢化や政府頼りによってできた医療の隙間へのプライベートセクターの積極的な参入が予想されています。今までは医療機関が主役であったヘルスケア産業だが、新規参入組の出現により患者ファーストの考え方にシフトが起き、その変化はM&Aにも現れています。昨年末のCVSヘルス(米CVSHealth、ドラッグストアチェーン)によるエトナ(米Aetna、医療保険会社)の買収などを例にしても、ヘルスケア産業ではモノの販売からサービス業へと軸足を移行する動きが続く模様で、ブランドの存在がM&A戦略の要になると思われます。

MA in 2018 Health Care CVS Pharmacy
Image courtesy of Flickr user Mike Mozart.

これらの予測にはまだ未知数の要素も多く、結果は保証できるものではありませんが、間違いなく言えるのは2018年のM&Aにはブランド戦略が重要な役割を担うということです。