2018年冬季オリンピック、ブランディング戦略のキーワードは大胆、繊細、複雑

誰よりも強く、誰よりも美しく、誰よりも早く。緊張と興奮で見る人を魅了する冬季オリンピック。世界中の注目が集まるこのイベントを、どのようにブランディングに活用するのか?世界各地のランドーのリーダーに2018年冬季オリンピックを見た感想と、注目したブランディングについて聞きました。アラブ首長国連邦、中国、アメリカ、そして日本のランドーのリーダーの見解はこちらになります。

Dubai: Mariagrazia De Angelis, Executive Director of Strategy

2018年のオリンピックでブランドビジビリティーの戦いを制したのはインテルでしょう。この半導体素子メーカーは90年代にあの画期的な「インテル、入ってる」の広告キャンペーンで一躍有名になりましたが、その後、レレバンスを保つことができず、テクノロジー業界内でもその存在感は薄れていきました。しかし、今回、平昌での開会式で世界記録を作ったドローンのパフォーマンスは素晴らしく、オリンピックスロープに現れたバーチャルリアリティーに誰もが引き込まれました。SNSを使ったキャンペーンは良く考え抜かれた構成で、それは「大きなイベントスポンサーシップを活用して、レレバンスを取り戻す方法」という項目で教科書に載せたいくらいのものです。インテルは人類が進化するためのテクノロジーという自社スタンスを世界的に確立させたと言えるでしょう。

https://www.youtube.com/watch?v=ETkwz_KOfI0

ブランディングに関わる立場から見ると、あの開会式の選手団入場は、その国のブランドを表現する大きなチャンスだと強く実感しました。観客がまず注目するのはチームのユニフォーム。国のブランディングとしてユニフォームは最適な表現方法ではないでしょうか。オリンピック選手団のユニフォームのデザインには絶妙なバランス感覚が問われます。他国の人々がその国に対して持つありふれた先入観は避けつつ、よく知られたその国の特徴、つまりその国のアイデンティティアセットをフル活用しなければいけないからです。今年のデザインには有名ブランドが多く参加していました。アメリカチームを担当したラルフローレン、ドイツチームのデザインを担当したのはアディダス。その中で、国のビジュアルアセットを最もうまく使っていたのはカナダです。トレーナーのような普段着から競技用のテクニカルなものまで、全てのウェアにメープルリーフが大きくあしらわれ見る人を飽きさせない創造性がありました。人を惹きつけるビジュアルシステムに一貫性はそれほど重要ではないということの証明です。

Shanghai: Todd Merriman, Strategy Director

1984年のロサンゼルス夏季オリンピックで、オリンピックに企業スポンサーが つくようになって以来、世界的規模のさまざまな企業が参加しています。常に 努力を続けるオリンピックアスリート達の持つ魅力、そこから生まれる感動やオリンピック精神に自社のブランドイメージをリンクさせようと努力してきました。誰もがその名を知るコカコーラやVisaのようなブランドがどのようにオリンピックとの関わりを活用しているかを見るのは有意義ですが、私にとっては、オリンピック開催国のブランドが何をしているかの方が興味深いです。オリンピックは確かにグローバルなイベントなのですが、同時にそれはとてもローカルなイベントでもあるからです。開催国、その国の人々、その国の企業がやはり大会の中心であり、韓国のブランドにとって平昌での冬季五輪はその国独自の文化、誇りを世界に発信し、また韓国のブランドを世界中の視聴者にアピールするまたとないチャンスなのです。

韓国のブランドの中で、世界で最も知られているのは、サムスンでしょう。今回、サムスンはオリンピックスポンサーとしてちょうど30周年を迎え、それが自国開催大会となれば力も入ります。また、現代自動車はパビリオンで燃料電池の技術を紹介しており、その建物、”The Darkest Building on Earth” (地球で最も暗い建物)はSNSで話題になっています。お菓子やショッピングセンター、ホテルなど幅広いブランドを持つ複合企業であるロッテは、K-ポップバンド、NCTを起用し、消費者を刺激してロッテ免税店での買い物客を増やそうとしています。LGとKTももちろんこの波に乗っていて、韓国の仁川空港に到着し た旅行者は、通信技術の先端を行くこの国らしく、AIロボットに出迎えられ、5Gコネクションの驚異的な速さに驚くことになります。

NCT U 엔시티 유 '일곱 번째 감각 (The 7th Sense)' MV

韓国は世界で最も革新的な国の一つで、最新技術だけではなくアートや文化でもそうでしょう。オリンピックは、世界が韓国のそんな3つの側面に触れる機会を提供し、韓国ブランドの印象を世界に残す大きなチャンスなのです。

New York: Thomas Ordahl, Chief Strategy Officer

そう、オリンピック。これほど、世界全体の統一感と一つ一つの国の誇りが不思議に混在するブランドがあるでしょうか。オリンピックのたびにそう思うのは私だけではないでしょう。ローカルとグローバルのどちらを味方すべきか。私の中で、二つの気持ちが揺れ動きそれはそれで良い試合になっています。自分の国にたくさんのメダルをとってもらいたい。でも小さな国を代表して参加している選手を見ると思わず勝ってほしくなります。

Check out these sights from the 2018 Winter Olympics Opening Ceremony

多くのグローバルブランドと同じように、オリンピックもその二つのファクターをそれぞれ満たさなければいけません。オーガニックコスメメーカーからグローバル規模のコンサル会社まで、数多くのブランドがその両立に苦労しています。オリンピックが他のブランドと違うところは、その二つの絶妙なバランス取りが、巨大なステージで、大勢の観衆に見守られるなか行われる、ということです。今大会の開会式が良い例で、各国、旗を掲げた旗手を先頭にオリンピックアスリートが国のプライドを持って入場します。同時に、そこに参加している国全てがまとまり、一つの壮観を作り上げます。今大会では特に、一つの旗を掲げて一緒に入場した韓国と北朝鮮の歩み寄り – たとえそれが一時的だとしても – が注目されました。

あまりに多くの人にあまりに違う意味を持つブランド、オリンピック。どうやってグローバルvsローカル、一つの国vsインターナショナルのバランスを保つのでしょうか。それはとても絶妙であることは確かです。もう一つ確実なのは、だからこそオリンピックは、参加する人と観る人全員の心を掴み揺さぶる魔法の力も持っているということです。

Tokyo: Stephen Berkov, Managing Director

2018年平昌冬季オリンピックが始まった時、その背景には政治的な緊張がありました。日本は特にそうです。北朝鮮が発射したミサイルは日本を飛び越え、日本の排他的経済水域に落下しました。日本の注目は北朝鮮政府幹部や応援団の動向に向けられ、アスリートやオリンピックスポンサーのブランドキャンペーンの影は薄れました。メディアは政治にフォーカスし、オリンピックの楽しさや中立性は影を潜めることになりました。これにより多くの日本の視聴者にとってのオリンピックというブランドイメージにマイナスな影響が出たことは間違いありません。次のオリンピック、2020年の夏季大会の開催国にとって大きな問題です。

https://www.youtube.com/watch?v=fCd6P7Ya160

政治的なことを除けば、認知度をあげることに成功したのはテクノロジーを活用したブランドでした。疑う余地なく(そして予想されていた通り)インテルは今大会のブランド戦の勝者です。開会式でShooting Starドローンが披露したライトショーは多くのメディアの注目を浴びました。ARとVR技術も大きく取り上げられ、ここでもインテルは大きくリードしていました。冬季オリンピックのVR配信の宣伝キャンペーンがかなりの後押しとなり、インテルのTrue VR アプリが話題に。Gear VRヘッドセットも合わせてニュースになっていました。

政治やハイテク技術、広告キャンペーンが話題の中心になっていた中、日本の羽生結弦選手の魅力と人気は揺るぎないものでした。男子フィギュアスケート競技でのあの素晴らしい演技は、オリンピックがなぜこんなにも大きな意味を持つのか、なぜ観客、選手、メディア、ブランド、そして政治にまで感動を与えることができるのかを思い出させてくれました。

 

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